コラム 「設備CAD営業人生の始まり」

2025/12/25

非営利活動法人 設備システム研究会

ベンダーのT


私が設備CADの世界に飛び込んだのは1992年4月、某商社系CAD開発・商社に入社しました。

研修を終えて配属されたのが建築設備CADを扱う営業部で、空調・衛生チーム、電気チーム、建設チームに分かれており、私は建設会社を主に担当するチームに配属されました。

そのお客様の中に当時共同開発元であった建設会社も含まれていました。

この会社には製造CADを扱う営業部もあり、自社開発である国産汎用CADを金型設計会社などへ販売を行っていました。

当時、同期の営業職の間では誰が初受注と獲るか?と言うことが会うたび話題にのぼりました。

製造CADの営業部に配属された同期は早くから先輩のお客様を引き継ぐなどしていましたが、私は当時展示会などで先輩方が得た大量の名刺を渡され自力で新規獲得を求められました。勿論先輩のサポートはありです。

当時インターネットもメールも携帯電話も無い時代、社内全員にパソコンも無い時代ですので、その名刺を頼りに電話をかけてアポ取りを行う日々でした。

そんなある日、技術系の先輩がお客様との定例会があるから一緒に出掛けない?と声を掛けてくれました。気分転換にと声を掛けてくれたのだと思います。

横浜方面への電車に乗り向かっていると、先輩が今日伺うのはここだよと車窓の外を指さしました。見えたのは建設中だった横浜ランドマークタワー。初めて見るその姿はバビルU世に出てくる塔のよう、その大きさに驚愕したのを覚えています。うちの会社はこんな大きな建物の建設に携わっているのか!?と改めて自分が入った会社の責任感を感じ、気持ちを引き締めたのもこの日だったのかも知れません。その先輩に聞くと当時みなとみらい地区の多くの新築の建物現場にはこの会社の建築設備CADが導入されていると教えていただき、今でも桜木町駅に降り立つと当時の記憶が蘇り、誇らしく思います。

同期2人に先を越されましたが、その後私も入社1年目に初受注を取ることが出来ました。当時はシステム販売を行っており、CADソフトウェアのみならず、それを動かすハードウェア、プリンタ、プロッタと一式でかなりの額でした。

お客様から注文書を渡すからとの電話をいただき受け取りに出掛けようとすると、建設CADの営業部の本部長が一緒に行こうと声を掛けてくださいました。だいぶ年上だし、親会社から来ている方だしと緊張しながら池袋から電車に乗りました。社内会議でも部下を叱咤激励する姿を日々見ておりましたので、新人だった私にとってはスター・ウォーズに出てくるダース・ベイダーのような存在でした。しかし、その印象はお客様先に着いた瞬間に一変しました。先方の社長やご担当者に深々と頭を下げ、笑顔で真摯に応対し、今後ともうちのCADを、そしてT(私)をよろしくお願いします!と何度も頭を下げてくれました。大きな商社の出身の方でも、たとえ会社の中では偉い立場となっていても、お客様を大切にする気持ちは営業マンである限り変わらないのだと痛感した場面でした。

帰り道、本部長が今日頂いた注文書は会社に戻ってコピーをとり、本紙は家に持って帰ってお父さんとお母さんに見せてあげなさい。そして今日と言う日を忘れないように大切に持っていなさいと言っていただきました。その注文書は今も自宅の机の引き出しに大切に保管してあります。

あれから30数年、その間所属する会社は企業合併や事業譲渡を繰り返し名刺に載る所属企業名は現在5社目、私も定年まであと3年と言う年齢になりました。

当時から残るメンバーは2人だけとなってしまいましたが、当時の本部長の年齢をも上回っている私たちは、次世代の方々に如何にバトンを渡し新たな価値の創造やお客様とのウィンウィンな関係構築の場面に携わって行けるように、まだまだ頑張って行きたいと思います。