コラム「乗馬で世界と家庭に泰平を・・・」
2024/09/03
非営利活動法人 設備システム研究会
大野
【私の紹介】
初めまして、今回コラムの執筆を仰せつかった大野と申します
20数年前より某設備会社に勤務しており、本社と東京で現場代人をしておりましたが、
10数年前に、建設産業の生産性向上の取組を専業で行う新設の部署へ急遽異動となり、
オフサイト化の取組を進めておりましたが、やはり肝は3Dモデルデータである事から、
昨年から図面を扱う部署と統合して、今に致ります。
しかし現場に出るのが好きな者で、内勤でありながら会社には半分もいない不良社員と言われております。
【文章は書くのは苦手です・・・そして馬が好きです】
さて、コラムの担当が回ってきたものの、ネタが無く苦悶しておりまして、
最近の趣味は釣りと自転車というところですが、話題にできるネタは無く
(このテーマはネットにはあふれかえっているますので・・・)、
助言に従って、まずは馬に関わる話でも、という事に落ち着きました。
馬と言っても競馬は趣味ではなく、学生から始めた乗馬と、地元の流鏑馬祭りが私の馬との関わりです。
【私が馬に思う事】
馬は、大体3歳ぐらいの人と同じ程度の知性があると言われています。
性格も非常に個性があり、仕草も人間臭いです。好き嫌いとかもはっきりしていて、
人に対する上下関係意識も高いため、信頼関係を築くまでは、本当の仲間として応対してくれません。
個人的には5,6歳の子供くらいの知性があると感じています。
信頼関係を築ければ、人なんかよりよほど信用できる仲間だと思ったりもします。
また、馬は利口で臆病なので、人の手を離れて逃げ出しても、結局は自分の居場所で待っています。
馬を運動させる馬場は高さ1mぐらいの柵に囲まれていますが、柵は境目を示す意味しかなく、
馬の身体能力では1.8mの高さも飛び越えられるのですが、馬達はそこからは脱走したりはしません
(たまに草を求めて柵から出ている事もありますが、逃げるでもなく迎えに来るのを待ってます)。
他の動物を飼うのとは違い、一緒に居ればいる程、馬という生き物には惹かれる魅力があります。
馬は動物を飼うというよりは、相棒と共に一緒に居る感覚に近いです。
その魅力のあまり、私は学内に住み込んで365日24時間、相棒と共にすごしてました。
【私の愛馬】
私が5年間(?なぜ5年かは御想像通りです・・)共に活動した相棒は『ルガーパイソン』という馬でした。
非常に運動能力は高い騙馬(雄の去勢した馬)でしたが、気性が荒いフリをしたり、人見知りだったりとシャイな相棒でした。
新人の学生が入部してきて、馬房(馬が生活する部屋)掃除のために自分(馬)の居場所に入ると、おもむろにお尻を向けてきます。
馬は草食動物ですので目が横についていますが、真後ろは見えない為、後ろに立つと条件反射で蹴とばす習性があります。
馬の蹴りは強力で、まともに受ければ骨折をします。ですからお尻を向けられる事は新人にとっては恐怖です。
ルガーは新人を馬房の隅にお尻で追い込み、時には蹴とばす素振りを見せて新人を苛めて楽しんでいました。
私が騎乗して馬場運動するときは素直にいう事は聞きますが、新人や下手な2年生が乗ると、
@全く動かず、歩いても走らず、走っても曲がらず
A急に走ったり、反対方向へ曲がって、落馬させようと脅かす
B後ろ足2歩でいきなり立ち上がる(馬は立ち上がると人の頭は地上から3mぐらいになるので怖い)
等の、肉体的、精神的な嫌がらせをする馬でした。
期待通り落馬すると、ぴたっと止まって、心配そうに鼻を向ける辺りは、自分は悪い奴ではないというアピールだったと思います。
本当に臆病な馬は、疲れるまで走り回っています。気のいい奴は嫌がらせなんかしないで運動はしてくれます。
でも、下手な騎乗者だと、指示が曖昧になるため動きの精彩は欠ける事にはなります。
私の相棒『ルガーパイソン』君
耳を伏せているので、少し警戒してる雰囲気
【馬から信頼してもらえれば、奥様から信頼してもらえるか?】
信頼関係を築くためにはどうすればいいかというと、
馬房の清掃や、騎乗後の馬の手入れ、ブラッシング、餌やりを自分が行う。
馬場運動では、騎乗者の思い通りでなくても怒らず、繰り返し同じ運動をして、理解してもらう。
運動が、こちらの意図通り出れば兎に角褒める。難しい動きが出来れば、とにかく感謝する。
基本練習は朝のみですが、昼や夕方に顔をだして、時には一緒に散歩する
(学生馬術では乗馬クラブと違い日中は馬はずっと馬房にいるので)。
学内をルガーと共によく散歩していたのですが、馬の蹄はアスファルトで音が響くため、学生部から怒られていました。
兎に角私の学生時代は、彼女や親以上に、ルガーに誠心誠意尽くしていたと思います・・・。
最近反省するのは奥様にも同僚にも同じような気持ちで接していかないとだめだなと思っています。
一度信頼関係が出来ると、馬から人を裏切るようなことは無いと思います。
草食動物ならではの、仲間意識みたいなものがDNAに刻まれているのかと思います。
ただ、性格が変わるわけではないので、機嫌が悪いときは性格も悪いですが・・・・(決して妻の話ではありません)。
【信頼の上での要求ですよね・・・】
信頼関係がある程度築けていると、難易度の高い騎乗技術に向けた訓練が出来るようになります。
私は『馬場馬術』と『障害馬術』という2つの競技に取り組んでいました。
馬術競技というと、今年はオリンピックの総合馬術団体で銅メダルを獲得し、
巷でも少しは耳にする事も増えましたが、基本的な競技は『障害馬術』『馬場馬術』ではないかと思います。
この2種目にクロスカントリーを含んだ『総合馬術』や馬のマラソンと言われる『エンデュランス』という競技もあります。
障害馬術は、その名の通り障害を馬に乗って飛び越えます。失点加算方式+走行タイムで勝敗がきまります。
馬場馬術はフィギュアスケートと同じで、馬の動きを減点法で複数人が採点して、平均点で勝敗を決めます。
『公益社団法人 日本馬術連盟』(
https://www.equitation-japan.com/)
『障害馬術』(
https://www.equitation-japan.com/rules_03.html)
『馬場馬術』((
https://www.equitation-japan.com/rules_02.html))
『エンデュランス』((
https://www.equitation-japan.com/rules_05.html))
いずれの競技も、人が技量を身に着ければいいというわけでは無く、
馬の力、馬の柔軟性、馬の上でバランスを崩さない騎乗者の体幹、が必要でこれを鍛えなくてはなりません。
人は自分の意志で自分を鍛えることが出来ますが、馬に自分の意志で自分の鍛えたいところを鍛える事は出来ないので、
騎乗者が複雑な運動の指示を出す事で、鍛えたいところを伝えて鍛える事になります。
人の足で前進の指示を出しながら、人の手では前を抑えると、馬は力をためる動き(上方向の運動)となったり、
前進の指示を出しながら、右前を抑える指示を出せば、後ろ足を中心とした左回転の運動になったりします。
ですが、馬は人より力があるため、抑えたからって、馬の動きを人力で止める事は出来ません。
あくまで騎乗者の指示に対して、要求された動きを馬が理解して、運動してくれている事になります。
バイクのように、人の操作に対し機械の動きが決まっている、操作を覚えれば同じように動かせるという事は無く、
騎乗者の意志を理解し、あえて馬自身にとってもきつい(力が必要だったり、柔軟性が必要な姿勢)運動をするのは、
日々のコミュニケーションと繰返しの練習、時に厳しく、時にやさしく、常に信頼して接していく事で出来るようになります。
ただし、騎乗者は馬の背に乗っているため、馬は騎乗者の心的な機微を鋭く感知します。自信なさげに騎乗すれば馬も不安になります。
そうなると競技中であれば、拒否したり暴走したりと、その能力を発揮させられず失敗する事になります。
馬術競技では、人馬一体で心技体を鍛えなくてはならないのと、そのためには人馬の高い信頼関係が必要となるのです。
信頼関係が無いと馬は騎乗者に意図を正確に理解することが出来ないというか、お願いを聞いてくれない感じになります。
ただ、馬は人間臭いところがあって、ある程度のベテランや気のいい馬になると、人を育てる事もしてくれます。
障害飛越などは若手の騎乗者が不安に思っていも、良い性格の馬であれば人をフォローして障害をクリアーしてくれます。
馬場馬術でも新人がコースを忘れてパニックになってもシラーと正解のコースを踏んでくれる気のいい馬もいます。
(当然、人の失敗を全く許してくれない馬もいますが・・・)
逆に若い馬であっても、ベテラン騎乗者が馬をフォローしてゴールをさせることで、馬に自信をつけさせる事もあります。
私が学士時代後輩の騎乗者によく言っていたのは、
「まず信頼されるようになりなさい、そして信頼をしなさい。でも信用してもダメ、信用されていると思ってもダメ。
信用は信頼と違い手抜につながり、しっぺ返しをされますよ・・・。それと不安は絶対に持ってはいけない、密着している相手は気が付くので。」
偉そうなこと言っていたものです。妻には聞かせられません。反省・・・・。
学生の練習風景
学生が大会に出るときの正装は学生服でした
【馬は愛すべき友です、でも経済動物でもあります】
馬は長く一緒に居ると、言葉が伝わらないけども、感情はよく伝わる生き物です。
機嫌が良かったり、気分が良かったり、疲れて不機嫌だったり、表情にも態度にも出るのは人も馬も同じです。
馬は体格もデカく力もあるので、人に忖度して感情を隠したりはあまりしないのですが、
根がやさしく思いやりがあるので、こちらに気を使ってくれていると感じる事が多くありました。
学生自体は馬には競技だけでなく日常生活でも、肉体的にも精神的にも助けられてたなと今にして思います。
学生時代に馬と過ごせたことが、自分のアイデンティティになっていると社会人になってから思う事が多いです。
ですが、馬は愛玩動物のように気軽に飼うことが出来ません。
それなりの広さの厩舎と運動場、ガソリン代よりも高い飼育料、ワクチンも予防接種もあります。
当然私にも辛い別れがありました。
馬は、天寿を全うする事はほぼできない、どちらかというと牛や豚と同じ経済動物でもあります。
飼育する価値がなくなると、違う形で経済に貢献する事になります。
私の愛馬も最後はコンビーフか家畜飼育用の餌となってしまいました。
一時期はそれが受け入れられない時もあり、馬から離れていたこともあります。
ですが今はまた、馬に関わっております。受け入れるべき事柄ってありますので。
私の人生の骨格になっているルガーとの日常と、ルガーへの思いには感謝する日々です。
とりとめのない、思い出話で申し訳ございません。
【あとがき】
2002年の元旦の写真、私は撮影者、一番右がルガーパイソン君です。
毎年正月には大学郊外の近くの神社まで馬に乗って初詣をしてました。
大学生になって10年くらいは正月に実家に帰ってなかったですね・・・。