コラム「黒部ダム」

コラム「黒部ダム」

2022/11/30
非営利活動法人 設備システム研究会
TN


皆様にとって記憶に残ったダムはありますか? ほとんどの方はあまり興味がないかもしれません。私自身、建設業界に携わっているからこそ多少興味がある程度ですし、ましてや多くのダムを観光した訳でもありません。そんな私ですが深く記憶に残ったダムがあります。 それは『黒部ダム』です。黒部ダムは竣工までに不可能といわれた数々の困難を乗り越えて建設されたダムになります。その竣工までの歴史を知ると更に興味が湧いてきます。何故、私が黒部ダムを知る事になったのか、そして興味を持ったのかをお話ししたいと思います。

それにはまず私自身が、富山と関わる必要があります。約10年前に仕事先として富山に赴任することになり、それまで日本海側の特に北陸地方に縁がなかったので、人生は何が起こるかわからないものだと不安と期待を胸に富山へ向かったものです。
北陸新幹線はくたか2022年7月撮影
当時は新幹線が開通する前だった為、富山まで行くのに上越新幹線で大宮駅から越後湯沢駅まで行き、北越急行ほくほく線はくたか号に乗り継ぐ半日以上かかるルートだった。富山までかなり遠かった事を覚えています。のちに、北陸新幹線が開通すると大宮―富山駅間を最短で1時間44分で行けるようになります。
富山での仕事を終えて、日常に戻ってから改めて北陸新幹線に乗って富山に旅行したいと思っていた。それは軽い気持ちでしたが、富山で有名な黒部ダムに行きたいと思っていた。そこで一度目の旅行では、北陸新幹線の停車駅である新黒部駅を目指した。駅名に『黒部』が入っていたので黒部ダムが近くにあるだろうと思っていたのです。恥ずかしながら調べればすぐ分かるのですが、黒部ダムは今回訪れた場所の黒部峡谷の更に上流にあり、迂回しなければたどり着かない場所にあると分かった。それはそれとして宇奈月ダムと黒部峡谷鉄道のトロッコ観光を楽しんだ。2024年から、黒部宇奈月キャニオンルートという工事用で使用していたルートが、観光向けに一般に開放されることになり黒部ダムへのルートは確保されますが、当時はまだないので黒部ダムに向かうのを諦めた。次こそは絶対に黒部ダムに行ってやると思っていた。
二度目は十分に下調べして向かいましたが、黒部ダムに向かうのに長野ルートと富山ルートがある事を知ります。富山ルートは立山駅から立山黒部アルペンルート(雪の大谷)を経てケーブルカーやモノレールを乗り継いで黒部ダムまで向かうルートと、もう一方の長野ルートは、高速バスから電気バスを乗り継ぐ時間的にも行きやすいルートだと分かり、今回は長野ルートを選択する。ここでも北陸新幹線の利用はマストです。長野駅から特急バスで扇沢駅まで向かい、扇沢駅から電気バスで関電トンネル(大町トンネル)を抜けて少し歩いた先に黒部ダムが見えてきます。この電気バスは、以前はトロリーバスを使用していましたが2019年から運用がスタート。自然環境への配慮がされています。
この関電トンネルは、黒部ダム建設の建築資材運搬用のトンネルとなる。当初は黒部峡谷を手運びや空輸で資材の運搬を行っていたが、搬出入ルート確保の為に開通が待ち望まれたトンネルです。しかし、破砕帯との遭遇により掘削作業は困難を極めます。この破砕帯80mを突破するのに約7ヵ月もの月日がかかった。現在は、先人たちの苦労の末に開通した破砕帯エリアがわかるようにライトアップされています。現在でも水が湧いているエリアを見学できるそうです。この開通までの苦労を小説にした「黒部の太陽」を映画化やドラマ化されたものを昔に観た記憶があり、水浸しになりながら先人達が掘削しているシーンを強く覚えています。
関電トンネルを抜け、雄大な自然の中に巨大な建造物が現れます。黒部ダムは堤高が日本一のアーチ式のコンクリートダムになります。ダムの天端から放水を眺めることができその迫力に驚きます。放水自体は観光放水になりますが、その放水に虹がかかっているのを観ると雄大さと美しさに息を飲みます。
黒部キャニオンルート公式より
破砕帯エリア2022年7月電気バスからの撮影
黒部ダム 2022年7月撮影
黒部ダム 2022年7月撮影
黒部ダム 2022年7月撮影

ダムの脇にコンクリートバケットが展示されているエリアがあります。これは、ダムの堤体部分のコンクリート打設で用いられ1回に 9立方メートルのコンクリートをダムの上に運び打設に用いられ、1日に600回近く打設したとの記録があります。どれだけ突貫工事だったのかが分かります。当時の西日本の電気を賄うことが建設の目的であったので、失敗が許されない工事だったと思います。展望広場からダムを眺めていると、先人たちの熱い思いを感じずにはいられない。
私自身が富山に縁ができて、黒部ダムをこの目で見るまで回り道をした為に初めて目にした時の感動が忘れられず、そして完成までの努力や苦労の歴史を知った事で黒部ダムが記憶に残るダムとなったのだと思います。
コンクリートバケット 2022年7月撮影
コンクリートバケット 2022年7月撮影

不可能と思われた破砕帯の突破、突貫工事での堤体部のコンクリート打設など先人たちの諦めなかった思いが今でも黒部ダムという形になって残っており、今を生きる我々が実際に稼働している姿を目撃しています。
シス研の活動が、今まさに業界の大きな困難に立ち向かっています。先人たちの諦めなかった思いが形になったように諦めずやり遂げる事が大切ではないかと改めて思います。

工事で犠牲になった先人達の慰霊碑に手を合わせて、待望のダムカードを入手し、ダム湖の遊覧船に乗って長野側の山々や富山側の山々をゆっくり眺めながらこの旅を満喫しました。