コラム「大五朗」

2021/01/31
非営利活動法人 設備システム研究会
三木秀樹


新型コロナ(Covid-19)騒ぎで、三つの密、いわゆる三密を避けるのが社会のルールになった。三密が去年の「新語・流行語大賞」で栄{は}えある年間大賞に選ばれたのも、ご存じの通り。
三密は密閉・密集・密接を意味する。この中で、密閉ってのがちょっと気になる。扉や窓が締められた建物や部屋は密閉されたイメージだが、もし換気扇などを回して外気を取り入れていれば密閉ではないからだ。逆に、扇風機やエアコンなどを回しているだけなら外気を取り入れているわけではないので密閉だ。設備屋なら誰でも知っているけど、一般の人はどうなのかな。
「パチンコ屋は三密だ」、なんて決めつけられて攻撃されていたけど、パチンコ屋さんの換気回数は6回/時程度らしい。これは、病室と同程度だから、決して換気が少ないわけじゃない。なにしろ、パチンコ屋さんの換気は濛々{もうもう}たるタバコの煙を想定してるからなぁ。これに比べると、住宅の24時間換気なんて、たったの0.5回/時しかないし。
なので、パチンコ屋さんが密集・密接かどうかは知らないが、少なくとも密閉ではなかろう。なので、「間違っているだろ#」と、しかるべき換気の権威、例えば我らが設備屋の総本山である(社)空気調和・衛生工学会あたりからガツンと言ってほしかったなぁ。存在感がないなぁ。
換気回数は、1時間あたりの換気量÷部屋の容積、つまり換気量が部屋の空気量の何倍かを表すものだ。逆に言うと、換気によって部屋の空気がどれぐらいの時間で入れ替わるかを表すものでもある。換気回数が多ければ、部屋の空気が入れ替わるのはより早くなり、少なければより遅くなる。単純計算では、例えば、換気回数が1回/時なら1時間で、6回/時なら10分で、20回/時なら3分で、部屋の空気が入れ替わることになる。空気が入れ替わると、空気に含まれる粒子、例えば病原体の濃度が下がる。
換気回数がいくらと言うより、部屋の空気が入れ替わる時間がいくらと言うほうが、一般の人には分かりやすいだろう。なので、これも一つの見える化であるな。
写真 車内換気のお知らせ(2020年9月)
もっとも、これは空気がトコロテンのようにキレイに押し出される場合であって、フツーはそうじゃないから、もっと時間がかかる。どれぐらいかかるかとゆーと、次の式で計算できる。もともとは、非一方向流クリーンルーム用の計算だが、フツーの部屋で換気をする場合も、理屈はほぼ同じはずだ。
t=log10(C0/C)/akn
C:t時間後の粒子濃度[個/体積]
C0:初期粒子濃度[個/体積]
a:補正値(0<, <=1.0、フツーは0.6程度)[-]
k:定数(=log10e≒0.4343)[-]
n:換気回数[回/時]
t:運転開始後の時間[時]
「つーか、こんな面倒な計算をさせるんかぃ#」とおっしゃる方が居れば、機械に計算してもらう方法もある。ブラウザーの動的処理って便利だなぁ。
[注]エラー処理は最小限のみ
[注]Chrome、InternetExplorerで動作確認(ブロックを解除する必要あり)
式 粒子濃度の減衰の計算(JavaScript使用)
この計算例によると、換気回数が6回/時だと、粒子の濃度が1/10まで下がるのに、つまり部屋の空気が90%入れ替わるのに約38分かかることが分かる。1/100、99%なら、倍の約77分、1/1000、99.9%なら、3倍の約115分だ。あくまでも概算だけど、フツーの部屋だと、これぐらいの精度でも十分でせう。「もっと正確に計算しないとダメだろ#」とおっしゃる方が居れば、CFD(数値流体解析)ソフトを使って下さい。
38分が長いか短いかはさておき、部屋の空気が入れ替わるまで、「38分間待つのだぞ。」「ちゃん。」知っている人は知っている。知らない人は・・知らなくていいです。