コラム「そもそも論」
2020/11/15
非営利活動法人 設備システム研究会
三木秀樹
いつもお世話になっているWikipediaの解説をウケウリすると、ブラックボックスとは「内部の動作原理や構造を理解していなくても、外部から見た機能や使い方のみを知っていれば十分に得られる結果を利用する事のできる装置や機構の概念」とされる。要すれば、理屈を知らなくても効果を知っているもの、ってことだ。
ブラックボックスは身の周りに溢れている。例えば、マスクだって、粒子を捕集する理屈を知らなくても、粒子を捕集する効果を知っているから、誰でもフツーに使っている。「ブラックボックスは信用できん」と言ってる人は、マスクの理屈を知っているのかな。
もちろん、何から何まで理屈を知ることは、よほどのヒマ人でなければ不可能だ。でも、自分のシゴトに関わることは、ブラックボックスをホワイト・・は無理でもグレー程度にはしておきたいものだ。周りの人から何かを質問された時に、知ったかぶりをするために。
設備屋の世界では、CAD系の人にはパソコン絡みの質問が時に飛んできたりする。大半の設備屋には、パソコンもブラックボックスだからなぁ。「パソコンのことは情報システム部に質問しろよ、このーっ#」と思っても、情報システム部は本社様だから、畏れ多いのも何となく分かる。なので、少しは理屈も仕入れておかないとなぁ。
そもそも、パソコンは半導体の塊りだ。そして、半導体もブラックボックスの一つだ。半導体にもイロイロあるが、トランジスタはその代表だ。バイポーラ型とかMOS型とか難しいことはともかく、リレーと同じく1次側の入力で2次側の出力をON/OFFできるものだ。リレーと違うのは、小さくて軽くて壊れにくくて動作が速くて静かで省エネで、かつ安いことだ。例えば、2SC1815という定番のトランジスタなんて、まとめて買えば1個たったの5円だ。今どき、5円じゃ駄菓子屋さんでも何も買えないんじゃないかな。
写真 私のリレー(オムロンMY2)とトランジスタ(東芝2SC1815)
トランジスタの機能もイロイロあるが、トランジスタと抵抗を組み合わせると、NOT、AND、ORのような論理演算ができる。論理演算ができると、0+0=0、0+1=1、1+1=10(2進)のような算術演算ができる。つまり原始的なコンピュータができる。もちろん、リレーを使っても同じことができるが、大きくて重くて壊れやすくて動作が遅くてうるさくて省エネじゃなくて、かつ高くなっちゃうね。
論理 |
NOT |
AND |
OR |
回路 |
|
|
|
論理値表 |
入力 |
出力 |
入力1 |
入力2 |
出力 |
入力1 |
入力2 |
出力 |
0 |
1 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1 |
0 |
1 |
0 |
0 |
1 |
0 |
1 |
|
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0 |
1 |
0 |
0 |
1 |
1 |
|
|
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
1 |
注)0: OFF, 1:ON
図 トランジスタと論理演算
この論理演算の回路をもっと使い易くしたのが論理ICだ。例えば、NOT、AND、ORなら7404、7408、7432とか。論理ICにもイロイロあって、発振や記憶ができるものと組み合わせると、もう少し立派なコンピュータができる。
論理 |
NOT |
AND |
OR |
型番 |
7404 |
7408 |
7432 |
回路 |
|
|
|
図 論理IC
写真 私のトランジスタ(2SC1815)と論理IC(7404、7408、7432)
たくさんの論理ICをギュッと詰め込んだものがCPU(中央演算装置)だ。昔なら4004とか8086とか、今ならCore i7とかRyzenとか。4004のトランジスタ数は約2000個、Core i7は約10億個だそうだ。CPUを使うと、もちろん、もう立派なコンピュータだ。
私にとっての最初のコンピュータは、受験用にオネダリしたダイエー BUBU 電卓だった。四則演算しかできなかったけど、手計算に比べて劇的に時間短縮ができたので、マンガを楽しむ時間を減らさずに合格できた。何事によらず、精神力なんかより技術力や機械力が結果を左右するのだ。その後、フツーの電卓から関数電卓へ、関数電卓からプログラム電卓へと乗り換えるたびに、ワクワクした。カローラ→コロナ→クラウン、って感じかな。
写真 私のプログラム電卓/ SHARP PC-1255(1983年製)
プログラム電卓以上、パソコン未満、なのがマイコンだ。マイコンと言う名前の通り、文句なしに立派なコンピュータだ。昔ならTK-80、今ならArduino UnoとかRaspberry Piとか。パソコンに比べると、お値段も手頃だ。
今は、マイコンのプログラムはパソコンで作るのがフツーだ。例えば、Arduino Unoなら、C言語の親戚のような言語だ。と言っても、C言語特有のチョー難しいポインタを考えなくても済むように毒抜きされているので、BASIC言語の親戚のような言語でもある。つまり、素人でも何とかなる。
写真 私のマイコン(Arduino Uno)
マイコンと言えば、PLC(Programable Logic Controller)も、そうかもしれない。設備屋なら一度ならず見たり聞いたりしたことがあるだろう。制御用に特化していて、拡張性や信頼性は抜群だ。何より、機械を動かせるので、パソコンとはまた別の楽しさがあって、クセになる。でも、お値段はそれなりに高くて、個人で買うのは大変なんだよなぁ。
PLCのプログラムは専用の入出力機器で作るか、パソコンで作る。自動制御図の親戚のような言語だ。なので、設備屋でも何とかなる。
写真 私のPLC(MELSEC FX3U)
とゆーことで、準備はできた。あとは、誰かがパソコン絡みの理屈を質問するのを待つだけだ。その際は、本題に入る前に「そもそも、パソコンは半導体の塊りだ。」から始めて、相手が辟易{へきえき}とするまで長々と説明してあげましょう。そうすれば、次から質問されなくなる。
参考
もっと長々と説明したい時には、こちらも使って下さい。