コラム「CADなんだから」

2020/06/30
非営利活動法人 設備システム研究会
三木秀樹


今から30年ほども昔のこと、30代の私がCAD研修の講師をしていた時、研修に飽きた生徒のオジサンが呟いた。「CADなんだから、ボタン一つで図面を書いてくれりゃいーのに。」と。
私は正直ムカついた。「そんなことできるわけないだろ#、それよりさっさと手を動かせよ、このーっ#」と。
でも、なぜかそのオジさんの呟きは、それから何年経っても忘れられず、いつしか強迫観念になった。そして、50代になった私は、ついに会社に提案することにした。「施工図作成の自動化」を。
といっても、確たる目算があったわけではなく、提案も採用されないと思っていた。でも、「10億円かかっても、やるべきです。」などという大風呂敷が効いたのか、採用されてしまった。多分、今度は会社側が大風呂敷にムカついて、やらせてみて後で懲らしめてやる、ということだったんじゃないかと思う。あはは。
期間は3年。さっそく調査と検討を始めたものの、泥縄だから半年後には行き詰まってしまった。袋小路に追い込まれて、懲らしめたくてウズウズしている人達の顔が浮かんだ。でも、その時、まるでドラマの如く、ふと閃いた。そうだ、空間を小さなマスに分けて、スタートからゴールまで、ひとマスずつ障害物を避けながら進んで行けば、配管やダクトが書けるじゃん、と。袋小路から一気に有頂天、私って天才、と思った。なんと単純。
一旦閃くと、あとはそれほど難しくない。VBAプログラマーでも何とかなる。
図 経路の計算例(2014年3月)
その後、改めて調査をすると、同様の手法は既に当たり前のものだと分かって、天才はあっさりと凡人に逆戻りしたわけだが、おかげで低レベルではあるものの何とか形になって、会社側に懲らしめられずに済んだ。さらに、特許も取れたし、博士(工学)にもなれた。
図 経路の計算例(2016年3月)
あの時の呟きこそは、神様の啓示だったに違いない。でも、いくら神様が啓示を与えてくれても、聞きのがしていることが大半じゃないかしら。なにしろ、神様の啓示は、いかにも神様らしからぬ人の口から発せられるようだから。


参考
建築設備分野におけるBIMの課題と解決手法に関する研究/
第5章 空調・衛生配管の自動経路配置手法の開発
(2015年3月)